ガスライティングの法的対応:国際的視点
近年、法的にも注目されるようになった心理的虐待の一形態であるガスライティング。この問題に対する世界各国の法的対応と現状を専門的な観点から解説します。
イギリスとオーストラリアの法的対応
イギリス(イングランドおよびウェールズ)
2015年に施行された「重大犯罪法(Serious Crime Act 2015)」第76条により、親密な関係における「支配的または強制的な行動」が犯罪として規定されました。この法律の下で、ガスライティングは「強制的支配行動」の一形態として扱われています。
違反者には最高5年の懲役刑が科される可能性があり、2022年にはイギリスの高等法院が「ガスライティング」という用語を公式に法的文脈で認めました。この判断は、同種の事案に対する法的認識を高める重要な先例となりました。
オーストラリア(ニューサウスウェールズ州)
2024年7月から、ニューサウスウェールズ州では「強制的支配」を犯罪とする法律が施行されました。この先進的な法律により、親密な関係におけるガスライティングを含む心理的虐待行為が明確に刑事罰の対象となっています。
違反者には最大7年の懲役刑が科される可能性があり、被害者保護の観点から高く評価されています。この法改正は、オーストラリア全土における同様の法整備の促進につながると期待されています。
カナダにおける法的取り組み
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法案提出前(~2022年)
カナダでは、ガスライティングを含む心理的虐待行為に対する法的対応が不十分であるとの認識が高まり、専門家や被害者支援団体から法整備を求める声が強まりました。
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法案提出(2023年)
「強制的支配行動(coercive control)」を刑法で犯罪化する法案(Bill C-332)が提出されました。この法案は、親密なパートナー関係における心理的虐待行為を明確に犯罪として規定することを目的としています。
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現在(審議中)
法案は現在も審議が続けられており、成立すればガスライティングを含む一連の心理的虐待行為が刑事罰の対象となる可能性があります。法案成立に向けて、各界からの支持が広がっています。
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将来(法案成立後)
法案が成立した場合、ガスライティング被害者の法的保護が強化され、加害者に対する厳正な対応が可能になると期待されています。また、社会的な啓発効果も見込まれています。
日本における法的状況

現行法での対応の可能性
ストーカー規制法、DV防止法、民法の不法行為など
地方自治体の取り組み
新潟県や神奈川県での条例改正の検討
被害者支援体制
相談窓口、民間支援団体の活動
日本では、ガスライティングを明確に犯罪として規定する法律は現在存在していません。しかし、ケースによっては既存の法律で対応できる可能性があります。例えば、継続的なガスライティング行為が「つきまとい」に該当する場合はストーカー規制法が、配偶者間での行為であればDV防止法が適用される可能性があります。
また、新潟県や神奈川県など一部の地方自治体では、ガスライティングを含む組織的嫌がらせ行為への対応を強化するための条例改正が検討されています。今後、国レベルでの法整備も課題となっており、被害者保護の観点からの議論が期待されています。
ガスライティング対策の国際動向と今後の展望
法的認識の高まり
ガスライティングは、被害者の精神的健康を深刻に損なう行為として、国際的にその危険性が認識されつつあります。特に欧米諸国では、法的枠組みの中でこの問題に対応する動きが活発化しています。
法整備の進展
イギリスやオーストラリアなどでは、すでに法的に明確な対応が進められています。これらの国々の取り組みは、他の国々にとっても重要な参考事例となっています。一方、日本を含む多くの国々では、まだ法整備が十分とは言えない状況です。
今後の課題と展望
今後は、より多くの国々での法整備や啓発活動が求められます。また、国際的な協力体制の構築や、被害者支援の充実も重要な課題です。被害に遭っていると感じた場合は、専門の相談機関や弁護士に早めに相談することが重要です。
ガスライティングは巧妙な心理的虐待であるため、証拠の収集や立証が困難という課題があります。今後は、デジタル証拠の活用や専門家による心理的評価など、新たな法的アプローチの開発も期待されています。また、予防的観点からの教育・啓発活動の重要性も高まっています。
ガスライティングが犯罪化されている国々
  • イギリス(イングランド・ウェールズ): 重大犯罪法では「強制的支配」として最大懲役5年の刑事罰対象になっています。
  • スコットランド: 家庭内虐待法で心理的虐待として明確に犯罪化されています。政府の公式資料にも明記されています。
  • アイルランド: 家庭内暴力法において心理的・感情的虐待として違法と定義されています。
  • オーストラリア: クイーンズランド州など複数の州で「強制的支配」として家庭内暴力の一種とみなされています。
  • アメリカ: 州によって扱いが異なり、主に民事法や家庭裁判所での判断材料となっています。
  • 日本 現状:ガスライティング自体を直接処罰する法律はありません(遅れています)。